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佐伯の「制作メモ」と描画位置を整理する。 [気になる下落合]

 佐伯祐三の「下落合風景」シリーズとその周辺を描いた作品は、現時点でモノクロの画像も含めて、全部で42点(会場写真に写る新発見の作品や、「踏切」と「絵馬堂」を含めると47点)ほどが確認できる。この点数は、佐伯の死後から現在にいたるまで出版された画集をチェックすると、のべこの点数を観ることが可能だ。(新発見の3作品を除く) でも、中には戦災で焼けてしまったものも含まれているだろう。特に、モノクロ写真でしか観ることのできない作品は、その可能性が高い。あるいは、個人宅でひっそりと眠ったままなのかもしれない。
 さらに、佐伯の「下落合風景」とは気づかずに、個人蔵となっているものもかなりあるのではないだろうか? 大正末から昭和初期にかけ、佐伯祐三頒布画会を通じて「下落合風景」が多く販売されたと思われる西日本方面には、いまだ“未発見”の作品が死蔵されている公算が高いように思われる。50点ぐらい描かれたとされる「下落合風景」シリーズだが、写真に写る新発見のものなどを考慮すると、実数はもっとはるかに多いのではないか? 独自の画布の製作枚数Click!を踏まえ、佐伯の制作ペースを併せて考えると、50点では少なすぎる印象がある。そのうち現存する作品と、かろうじてモノクロの写真画像で残されたものを合わせ、42点(47点)の作品がいまでも確認できるわけだ。
 佐伯祐三が残した「制作メモ」Click!を見ると、画像で現存する作品と一致するもの、あるいは一致しないものがある。ほとんど描画ポイントClick!の特定を終えたので、「制作メモ」をもう一度見直して整理してみよう。メモの時系列に沿って、佐伯がイーゼルと絵道具を抱えながら歩いた、1926年(大正15)秋の下落合における足跡を、ひととおりたどってみたい。
9月18日(曇天) 「原」(20号)、「黒い家」(20号)
  「黒い家」は、わたしは「くの字カーブの道」Click!の東寄りから射す逆光に浮かびあがる黒い屋敷の作品ではないかと思っている。同日に描かれた「原」は、キャンバスが同じ号数のこともあり、「黒い家」が建っていたと思われる、当時の“翠ヶ丘”周辺に拡がっていた原っぱのことではないか。
9月19日(晴天) 「原」(15号)、「道」(15号)
  「原」Click!「道」Click!は、きわめて近接しているポイントだ。第二文化村の北側に通う、葛ヶ谷(西落合)との境界の道筋を歩いているときに、佐伯の目にとまったふたつの風景。
9月20日(晴天) 「曾宮さんの前」(20号)、「散歩道」(15号)
  「曾宮さんの前」は、間違いなく曾宮邸の南側・諏訪谷のことを指している。秋と冬に何度か描かれた、諏訪谷風景Click!に相当すると考えている。一方、「散歩道」は号数が異なるので、一度アトリエにもどって出直したのだろう。いや、夕方の情景が「曾宮さんの前」で、午前中が「散歩道」の可能性が高い。だから、同じ曾宮邸の周囲を描いているとは限らない。
9月21日(曇天) 「洗濯物のある風景」(15号)
  中井御霊神社の下Click!まで遠出をしたせいか、この日はこれ1作しか描いてない。もう一度、雪が降った日に、佐伯はここまで遠出Click!をして描いている。
9月22日(小雨) 「墓のある風景」(20号)、「レンガの間の風景」(15号)
  諏訪谷のさらに南にある、薬王院の墓地Click!を描いたもの。同日の「レンガの間の風景」は号数が異なるので、やはりアトリエへ一度もどっているようで、薬王院の周辺とは限らない。
9月24日(小雨) 「かしの木のある家」(15号)
  現存する画像の中にそれらしい1作Click!があるけれど、描画ポイントが特定できない。
9月25日(小雨) 「曇日」(15号)
  場所も作品画像も不明だ。佐伯の描く絵は多くが曇り空なので、どれでも当てはまりそうだ。
9月26日(曇天) 「上落合の橋の附近」(20号)
  描画ポイントは、2ヶ所のうちのどちらかだろう。寺斉橋Click!と、のちの昭和橋Click!だ。
のちに上記「寺斉橋」と思われた作品の実物を日動画廊のご好意で間近に拝見し、「八島さんの前通り」(1927年6月ごろ)の1作であることが判明している。詳細はこちらの記事Click!で。
9月27日(晴天) 「夕方の通り」(20号)、「遠望の岡」(20号)
  「夕方の通り」Click!は、おそらく城北学園(目白学園)北側の道筋を描いた作品だと考えている。ただし、この日に描かれたのは「遠望の岡」のほうが先だ。アビラ村付近で、丘上から遠望のきく眺めというと、二ノ坂の上から新宿方面を書いたこの作品Click!だろうか?
9月28日(晴天) 「八島さんの前通り」(20号)、「門」(20号)
  この2作の描画位置は明白だ。佐伯アトリエから徒歩1分と離れていない、第三文化村の東側に接した通りClick!と、八島邸の門Click!の前。
9月29日(晴天) 「文化村前通り」(20号)、「切割」(20号)
  「文化村前通り」は、第二文化村の南端を通る道筋Click!だと思われる。また、「切割」はその道を西へと進み、左折した坂を下った二ノ坂下Click!のカーブのようにも思える。
9月30日(雨天) 「坂道」(20号)、「玄関」(15号)
  この2作も不明だ。作品に「坂道」は多いし、また「門」を描いた作品は何点かあるが、「玄関」を描いた画面は現存していない。雨が降っているので、午後から佐伯邸の玄関でも描いたものか?
10月1日(小雨) 「見下シ」(20号)
  丘上から下を見おろす作品もいくつか描いているが、どの作品かは不明だ。ひょっとすると、久七坂沿いの斜面に建っていた池田邸Click!のことだろうか?
10月2日(快晴) 「晴天」(20号)、「遠望」(20号)
  快晴と思われる気象条件で描かれた作品は数えるほどしかないけれど、該当する画像は見あたらない。また、快晴の遠望作品の画像は現存していない。
10月7日(曇天) 「松の木のある風景(○○が畑/細道)」(15号)
  現存する画像で、松の木が登場する作品はない。病気の直後なので、自宅付近を描いたものか。
10月10日(小雨) 「森たさんのトナリ」(20号)
  これは、森田亀之助邸Click!の隣りにあった里見勝蔵邸Click!を描いたもの。自宅のすぐ近くだ。
10月11日(曇天) 「テニス」(50号)
  第二文化村の益満邸テニスコートClick!を描いている。
10月12日(晴天) 「小学生」(15号)
  おそらく、落合尋常小学校Click!の界隈を描いていると想像できるが、子供たちが登場するそれらしい画像は現存していない。
10月13日(快晴) 「風のある日」(15号)
  第一文化村の水道タンク近くの風景Click!だ。いまは、山手通りと十三間通り(新目白通り)の交差点下になっており、描画ポイントに立つことはできない。
10月14日(快晴) 「タンク」(15号)
  第二文化村の箱根土地社宅用地の近くに設置された、水道タンクClick!を描いたもの。現在の、下落合教会(下落合みどり幼稚園)に隣接した一帯だ。
10月15日(曇天) 「アビラ村の道」(15号)
  第二文化村のテニスコートをすぎて、アビラ村の尾根沿いの通りClick!を描いたもの。
10月21日(快晴) 「八島さんの前」(10号)、「タテの画」(20号)
  またしても病気の直後だからか、佐伯アトリエに直近の通りClick!を描いている。
10月23日(晴天) 「浅川ヘイ」(15号)、「セメントの坪(ヘイ)」(15号)
  2作とも、曾宮邸のあった諏訪谷周辺を描いている。「セメントの坪(ヘイ)」Click!は曾宮アトリエの南側を描き、「浅川ヘイ」は道を隔てた東側の淺川邸を描いているが、淺川邸の絵は現存しない。
「セメントの坪(ヘイ)」には、制作メモに残る15号のほかに曾宮一念が証言する40号サイズと、1926年(大正15)8月以前に10号前後の作品Click!が描かれた可能性が高い。



 「制作メモ」に書きとめられたサブタイトルのうち、描画ポイントがほぼ明らかで、なおかつ作品画像の現存するものは18点。また、画像が現存し描画ポイントもわかるものの、サブタイトルがはっきりと特定できない、あるいは不明な作品が25点。サブタイトルはわかるものの、描画ポイントが判明していないものが1点(「かしの木のある家(風景)」)、サブタイトルも描画ポイントも不明なもの1点Click!・・・の計45作品ということになる。特に、1926~27年(大正15~昭和2)にかけて描かれた、「下落合風景」の冬景色バージョンあるいは春景色バージョンは、佐伯自身による制作メモも見つかっておらず、どのぐらいの点数があるのかも不明のままだ。

■写真上は、佐伯祐三を特集し「制作メモ」の写真が公開された、1957年(昭和32)の『みづゑ』2月号。いまではまず手に入らない稀少号で、わたしもある方から特別に譲っていただいた。
■写真下:1926年の秋、佐伯祐三が歩きまわりイーゼルを立てた下落合の描画ポイント。それぞれエリア別に、9月18日から10月23日までの制作スケジュールをたどってみる。
 


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ChinchikoPapa

またまた過分のご評価、ありがとうございました。>takagakiさん
by ChinchikoPapa (2007-06-25 17:01) 

ChinchikoPapa

昔の記事にまで、「読んだ!」ボタンをありがとうございました。>kurakichiさん
by ChinchikoPapa (2018-01-24 13:08) 

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