So-net無料ブログ作成

大正時代にもあった省エネへの取り組み。 [気になるエトセトラ]

葉山海岸の夕暮.JPG
 大正時代にも、省エネへの取り組みは行われていた。現在とは異なり、節電のための省エネではなく、あくまでも合理的かつ経済的、そして健康的な「文化生活」Click!を送るために自然エネルギーなどを利用する試みだった。代表的な事例が太陽光の活用だ。
 もちろん、当時は太陽光を使って発電するシステムなど存在しなかった。太陽光は、おもに湯沸かしに活用されている。1925年(大正14)に発行された『主婦之友』10月号には、「太陽熱で燃料節約に成功した家庭―経済と保健と便利の文化生活を視察した記―」と題するレポートが掲載されている。「勿体ないほどに恵まれてゐる、太陽の熱や光を、徒らに空費することなく、私達はもつともつとこれが利用に就いて考へねばなりません」ではじまる記事は、ヨーロッパとは異なり晴天が1年じゅう存在する日本の恵まれた環境を前提に、社会や生活のエネルギーインフラを考える上では、まさに今日のテーマを先取りしているともいえるだろう。
 この「文化生活」を実行しているのが、京都市相国寺東門前町に住む電燈会社Click!(今日の電力会社)社員というのも面白い。この家庭では、太陽熱利用のほかに電気冷蔵庫Click!を導入することなく、井戸の活用で「自然冷蔵庫」の仕組みづくりにも成功している。
 当時の太陽熱湯沸かし器は、戦後に普及したものとそれほどちがわない。南に向いた屋根の傾斜面に、薄い立方体の亜鉛(トタン)製で約60cm(W)×90cm(D)×15cm(H)のタンクを3つ並べて取りつけ、熱を吸収しやすいようコールタールを塗布し、さらに反射鏡を設置して太陽熱を集めている。温める水は、夏は生ぬるい水道水を、冬は水道水よりも温かい井戸水を用いて、できるだけ温度が上がりやすいようにしていたようだ。以下、その成果について同誌から引用してみよう。
  
 このタンク設備で、夏期の七、八、九の三ヶ月間は晴天である限り、タンク内の水は日中四時間で摂氏四十度内外に昇ります。一番暑く(ママ)なりましたのは、摂氏四十八度で、全くの熱湯になつてゐましたため、沢山の水をうめなければ使ふことができなかったさうであります。斯うして沸した湯は、お風呂とお台所に使用されます。それで夏期は概ね風呂を沸す必要がなく、曇天の日、降雨の日、或は夏以外の涼しい季節でも可なり燃料の経済が計られ、少くとも一ヶ年を通じて、三割方の薪炭の節約ができるさうであります。
  
 この設備は、トタン製のタンク3つで36円、内径1インチの送水パイプ200フィートで30円、バルブ2個で3円、工事費5円の合計74円で実現できたらしい。当時としては高価で、また年間30%の薪炭節約という費用対効果もそれほど高くないとは思われるが、水をイチから沸かす手間ヒマの低減や、蛇口をひねればお湯が出るという生活は、なによりも魅力的に映っただろう。同家では、燃料の節約も試みていて、「スイス方式」と名づけた燃えるゴミと燃えないゴミの分別により、燃えるものは台所や風呂の燃料として使用していた。
太陽熱湯沸器1925.jpg
 同家では、家族の健康増進のために太陽光を利用するサンルームも設置している。大正期は、サンルームがようやく普及しだした時期で、各地の病院などでも導入がはじまっていた。日光には殺菌力があり、毎日一定の時間、紫外線を浴びることが健康によいという意識が生まれていた。また、サンルームから母屋へ空気を誘導し、暖房費を節約するという試みも行われている。
  
 このサン・ルームの真の効果は、私共の保健上に、重大な使命を持つてゐるものであつて、既に病院などではこの設備をしてゐるところがあります。日光は、私共の保健上極めて大切なものであります。その日光浴をこのサン・ルームによつて完全に行ふことができるのであります。(中略) このサン・ルームは、冬期で日中華氏七十度くらゐ、夏期はとても暑いので、硝子屋根の上に丸太でで棚を組んで、糸瓜、南瓜、瓢などをからませ、日防けとしてをられます。
  
 また、台所にある「井戸冷蔵庫」は傑作だ。この冷蔵庫は、江戸期から全国的に行われていた冷蔵法と同じなのだが、大正期らしく機械式の仕組みになっている。台所の流しの下段に、オーブンのような装置を取りつけ、その下が深い井戸Click!になっている。その装置の中に手動エレベーターを取りつけ、冷蔵保存したいものを箱状の棚に入れてハンドルをまわすと、あらかじめ長さを調整したワイヤーで吊り下げられた箱が、するすると井戸の水面上まで下りていく仕組みだ。
  
 手廻しハンドルの回転によつて上下する、小さいエレベーターの仕掛けを作り、井戸の水面までは二十四尺ありますので、水面に届くだけに、二条の鋼索が、井戸中に垂らしてあります。貯蔵物を入れる器は、二重の金網で、底の方へは濡れてもいゝもの、例へばビール、サイダーなどを入れ、上の方は亜鉛(トタン)板製の箱になつてゐて、果物や魚類が入れられるやうになつてをり、底の方は水中に浸かりますが、箱の方は、水面に浮ぶやうに、鋼索の長さを一定にしてあります。
  
 ほかにも、この台所には水道水の温度を常に一定にするシステムが導入されていて、夏は生ぬるくなった水道水を井戸内に設置されたパイプを循環させることで冷やし、冬は同様に井戸内で一度温めてから台所や洗濯場に給水するという凝った仕組みになっていた。これにより、水道水は四季を通じて摂氏18度前後の温度に保たれていたらしい。
サンルーム1925.jpg 井戸冷蔵庫1925.jpg
 井戸を冷蔵庫Click!がわりに使うのは、江戸期から昭和期にかけて東京・山手のあちこちでも見られたが、とんだ失敗談も記録されている。ちょうど、上記の『主婦之友』が発行されたのと同時期、高田馬場(戸塚町Click!)に永滝という上海総領事の邸宅があった。この家でも夏場は、冷やす食品を金網の箱に入れて井戸にたらしていた。でも、吊るしていたのはワイヤーではなくロープだったのだ。来客用に大量の牛肉を購入した同家では、いつもどおり井戸に吊るして冷蔵していたのだが、重すぎてついにロープが切れてしまった。牛肉が落下した井戸水は、その後どうなったものか、1972年(昭和57)に三一書房から出版された能美金之助『江戸ツ子百話』から引用してみよう。
  
 代りの肉は買い入れたが、女中は主人に叱られるのを怖れて報告をしなかった。永滝さんは温厚柔和の仁で、女中を叱るような方ではなかったが、女中は極度に怖れてそのままにした。四、五日経って肉が腐り出した時分に六、七歳のお嬢さん(奥様は見えぬ家であった)が井戸水をほしがるので、女中は困って湯さましを井戸につるして呑ませ、今日は腹が痛いと言うか、明日はどうかと、えらい苦労をした。しかし、お嬢さんはご無事で安心しました、と。これはその女中からじかに聞いた話である。もちろん家人は誰も知らぬ。こんなあぶない冷蔵庫は他にもあたことだろう。
  
 山手の井戸に比べ、(城)下町Click!に張りめぐらされた水道の水は、それほど冷たくはなかったかもしれない。ただし、井戸とは異なりしじゅう流れているので、相対的に清潔で衛生的だっただろう。街人口の大半が、伝染病の流行で死滅してしまうというヨーロッパの都市のような壊滅的な疫病禍が、世界最大の街であり人口密集地だった大江戸で少なかったのは、もちろん水道インフラClick!がほぼ完備していたのも大きな要因のひとつだろう。でも、水道水は夏の冷たさ(冬の温かさ)や、ミネラル分を多く含んだ独特な旨味で、井戸水にはかなわなかったにちがいない。
葛飾北斎「百物語・さらやしき」1831.jpg 番町1953.jpg
 寛文年間にお家断絶した、旗本・青山播磨の邸内にあった井戸はことさらよく冷えただろう。平塚出身の腰元・お菊が投げこまれた深い井戸は、冷蔵庫ではなく「冷凍庫」に使えたかもしれない。w 戦前まで超高級住宅街だった皿屋敷の番町は、いまやビル街でほとんど面影が残っていない。

◆写真上:太陽エネルギーをどこまで利用できるだろうか? 葉山海岸の夕暮れ。
◆写真中上:屋根に取りつけられた、1925年(大正11)の太陽熱湯沸かし器。
◆写真中下は、大正期から普及しだしたサンルーム。当時は、気に入らない婿のために「いっそ庭に住むか?」の用途はない。は、まるで今日のオーブンのような仕様の井戸冷蔵庫。
◆写真下は、1831年(天保2)に制作された葛飾北斎『百物語』のうち「さらやしき」。は、1953年(昭和28)ごろの番町界隈。徹底的に空襲を受けた同地域は、ほとんど全焼している。


読んだ!(23)  コメント(27)  トラックバック(0) 
共通テーマ:地域

読んだ! 23

コメント 27

tree2

現代でも、家庭に取りつけるのであれば、太陽光発電装置より太陽温水器の方が実用的なんだとか。
震災後、代替エネルギーへの関心が高まっていますが、メディアは温水器のことはいいません。どうしてだろう?
by tree2 (2012-07-28 13:13) 

ChinchikoPapa

ドルフィーの死後オムニバス『Vintage Dolphy』は、リアルタイムで購入しています。発売と同時に入手した作品ですね。nice!をありがとうございました。>xml_xslさん
by ChinchikoPapa (2012-07-28 21:29) 

ChinchikoPapa

下関からの山口県西側を走る山陰本線は、一度も乗ったことがないですね。nice!をありがとうございました。>dendenmushiさん
by ChinchikoPapa (2012-07-28 21:39) 

ChinchikoPapa

きょうは入谷の鬼子母神界隈を散歩したのですが、さすがにこの暑さでアサガオはしおれていました。nice!をありがとうございました。>kurakichiさん
by ChinchikoPapa (2012-07-28 21:42) 

ChinchikoPapa

動物も好きな人間のタイプがあるようですね。うちのメスネコは、声域がアルトの女性がお気に入りのようです。nice!をありがとうございました。>ばんさん
by ChinchikoPapa (2012-07-28 21:48) 

ChinchikoPapa

夏には、よく冷やしたザッハトルテがいいですね。・・・と、すぐに美味いもんの話へとスライドしてしまいますが。w nice!をありがとうございました。>nikiさん
by ChinchikoPapa (2012-07-28 21:54) 

ChinchikoPapa

きょうは風呂へ二度入りましたが、こういうとき駅前温泉があると楽しいですね。nice!をありがとうございました。>NO14Ruggermanさん
by ChinchikoPapa (2012-07-28 22:01) 

ChinchikoPapa

ふだんはケーキも好きなのですが、この季節はどうしてもパフェに走ってしまいますね。w nice!をありがとうございました。>kiyoさん
by ChinchikoPapa (2012-07-28 22:06) 

ChinchikoPapa

tree2さん、コメントとnice!をありがとうございます。
太陽温水器は、ずいぶん以前から市場が限られていて受注生産に近い製造環境にあるものでしょうか。太陽光発電は量産体制が整い、グローバルな市場拡大も目に見えていますので、広報宣伝しやすいビジネス環境にあるんでしょうね。
太陽温水器のメーカーは、太陽光発電メーカーに比べて規模が小さいというところも、目立たない要因なのかもしれません。
by ChinchikoPapa (2012-07-28 22:23) 

ChinchikoPapa

入れ替えたばかりの、うちの給湯システムと同じモデルですね。女性のアナウンスがうるさいので、わが家では音声を切っています。w nice!をありがとうございました。>駅員3さん
by ChinchikoPapa (2012-07-28 22:27) 

ChinchikoPapa

電気屋さんの店先、SONYの古いロゴの下でLPレコードを売っているのがなんともいえない風情ですね。nice!をありがとうございました。>八犬伝さん
by ChinchikoPapa (2012-07-28 22:37) 

ChinchikoPapa

仮面に覆われた主人公の様子は、22口径の銃口を相手の頭に向けて、表情を変えずにためらいもなく引き金をひいた、永山則夫事件を思い出してしまいました。nice!をありがとうございました。>月夜のうずのしゅげさん
by ChinchikoPapa (2012-07-28 22:45) 

SILENT

番長皿屋敷の冷凍庫、平塚のお菊井戸を思い出しました。
この物語、漆器から瀬戸の器の勢力を危ぶんだ、漆器業者の創作だという話には何か納得されるものがありました。
井戸冷蔵庫はスイカが昔浮かんでいた我が家でした。
最近でも非常用に井戸を造った家の話を聞きました。
by SILENT (2012-07-29 03:59) 

ChinchikoPapa

SILENTさん、コメントをありがとうございます。
確かに、漆器ならいくら落としても割れないので、お菊さんは気をつかわず「安心」ですね。w
わたしも、井戸冷蔵庫というと冷やしスイカのイメージが強いです。その昔、知り合いの家へ遊びに行くと、井戸で冷やしたスイカを切って出してくれました。当時の冷蔵庫は、スイカが丸ごと入れられるほど大型ではなかったですね。
こちらでも最近、井戸掘りがあちこちで盛んです。昔に比べて、工事も大規模にならず工期もかなり短縮されているようです。
by ChinchikoPapa (2012-07-29 11:07) 

ChinchikoPapa

子どものころ教育テレビだったでしょうか、藤城清治の影絵を使った童話劇をやっていて、欠かさず見ていたのを憶えています。nice!をありがとうございました。>アヨアン・イゴカーさん
by ChinchikoPapa (2012-07-29 16:37) 

ChinchikoPapa

こちらにも、nice!をありがとうございました。>opas10さん
by ChinchikoPapa (2012-07-29 16:51) 

ChinchikoPapa

働きはじめたり人間関係が拡がったれすると、その中でうまく自分らしさを保ちつつバランスをとるのが難しくなっていきますが、その自覚さえなくなってしまうのがもっと怖いですね。nice!をありがとうございました。>あんぱんち〜さん
by ChinchikoPapa (2012-07-29 16:56) 

ChinchikoPapa

「あをによし」の枕詞どおり、奈良の寺々には抜けるような青空が似合いますね。nice!をありがとうございました。>マチャさん
by ChinchikoPapa (2012-07-29 20:53) 

ChinchikoPapa

先日、葛飾を散歩してきたばかりですが、江戸川沿いの古墳群が面白いですね。nice!をありがとうございました。>namnamさん
by ChinchikoPapa (2012-07-29 23:00) 

ChinchikoPapa

わたしも、このところウナギとパフェの食べすぎで、少し体重が増えてしまいました。nice!をありがとうございました。>うたぞーさん
by ChinchikoPapa (2012-07-30 10:09) 

ChinchikoPapa

帆船や外洋クルーザー(大型ヨット)などが好きなのは、きっと波を受けて上下する独特なローリングの醍醐味だと思います。nice!をありがとうございました。>ベッピィさん(今造ROWINGTEAMさん)
by ChinchikoPapa (2012-07-30 10:12) 

sig

現在でも、焼酎の4リットルペットボトルに水を入れて、黒い紙などを巻いて外に出しておくだけで、結構なお湯になるでしょうね。
by sig (2012-07-30 14:12) 

ChinchikoPapa

sigさん、こちらにもコメントとnice!をありがとうございます。
陽当たりのいい場所だと、午後には40度前後にはなりそうです。お風呂の用途ですと、はたして何本ぐらい必要になるでしょうね。
by ChinchikoPapa (2012-07-30 18:56) 

ChinchikoPapa

こちらにも、nice!をありがとうございました。>suzuran6さん
by ChinchikoPapa (2012-08-02 22:54) 

ChinchikoPapa

少し前の記事にまで、nice!をありがとうございました。>fumikoさん
by ChinchikoPapa (2012-08-06 21:38) 

ChinchikoPapa

こちらにも、わざわざnice!をありがとうございました。>sonicさん
by ChinchikoPapa (2012-08-09 16:33) 

ChinchikoPapa

ごていねいに、こちらにもnice!をありがとうございました。>じみぃさん
by ChinchikoPapa (2012-09-13 12:38) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました