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ヒグラシの声を聞くたびに。 [気になる下落合]

 8月に入って、ようやく朝夕にヒグラシの声を聞くようになった。もちろん、アブラゼミやミンミンゼミはうるさいほどに鳴いているのだけれど、やっぱり夏の夜明けや夕暮れとなると、ヒグラシのどこかはかなげな声が聞こえないとさびしい。そして、ヒグラシは昔から、泉が湧き濃い緑がしげる下落合を代表する昆虫でもあるのだ。
 ヒグラシは、市街化されコンクリートで固められてしまった町には、まず育たない。新宿でも、ほとんど聞くことができないセミの声となってから久しい。清廉な水と濃い緑がないと、なかなか生き残れないセミなのだ。ミンミンゼミやアブラゼミは、ヒグラシに比べてはるかにたくましい。公園や屋敷森ほどの緑地が近くにあり、農薬や除草剤をむやみに散布しなければ、数は増えこそすれ減りはしない。その点、ヒグラシは環境の変化にとても敏感なセミのようだ。そういう意味では、東京に残る自然を測る、格好のバロメーターといえるのかもしれない。
 明け方、4時30分ごろになると、申し合わせたようにヒグラシの声が下落合に響く。すぐ近く、ベランダのあたりで鳴かれたりすると、とんでもない音量で眠りを妨げられることがある。ミンミンゼミやアブラゼミの鳴き声で目ざめることはないが、なぜかヒグラシのカナカナカナ・・・という声には敏感なようで、とたんに目がさめてしまう。明け方と夕暮れに多く鳴くので、ふだんから耳にあまり馴染んでいないサウンドだからだろうか。
 
 竹田助雄の『御禁止山-私の落合町山川記-』Click!(1982年・昭和57)に、戦後初めて御留(禁止)山へ足を踏み入れたときの、次のような印象深い表現がある。
  
 それよりも私には最前から森の奥から聞こえてくる蜩(ひぐらし)の群唱が気になって仕方がない。ところどころで一匹や二匹鳴く蜩なら珍しくはないが、戦後この方こんなにたくさんの蜩が一斉に鳴いている風情なんて初聞であった。
 (中略) 真夏の林は一層昏い。陽は木の間を漉かして斑かに落ちる。葉は熱を遮り、土は音を吸収する。その閑静な林に蜩が一入にぎやかなのである。私は樹々を見やった。根方で鳴いているのもおればすぐ側から不意に飛び立つのもいる。その一匹なんぞは慌てて飛び立って笹薮の中に飛び込み、出られなくなって地べたでばたついている。手を差し延べて捕え、軽く握ると蜩は、透明な翅を敏捷に振るわせて必死に逃げ出そうとする。私はそれを抓んで群唱の中に立っていた。林は厳然とその存在価値を主張し、こんな手近なところに、これほど生きている自然が横たわっていることを私は改めて知る。
  
 御留山で群唱しつづけるヒグラシの声は、そこかしこから湧いた清流と武蔵野原生林の濃い緑とがセットになって、竹田の晩年まで頭の中に響きつづけていたに違いない。
 
 その後、1970~80年代にかけて空気や土壌が汚れ、ミンミンゼミやアブラゼミはしぶとく残ったものの、ヒグラシの声は下落合から急速に消えていった。ところが、ここ10年ほどでヒグラシの声を、再び頻繁に聞くようになった。ヒグラシにとっての棲息環境が、少しはマシになってきたのだろうか? 特に御留山から薬王院の森にかけて、下落合のいわゆるグリーンベルト沿いに、近ごろカナカナの声が早朝からかまびすしい。
 竹田助雄が聞いたヒグラシの群唱に比べたら、なんとも心もとない合唱には違いないけれど、あの大川や神田川が人の暮らしが成り立たないほど汚れに汚れた時代は、遠ざかりつつあるのかもしれない。とりあえず、そういうことにしておこう。

■写真上:セミの記事なのに、ショウジョウトンボの写真。だって、どうやってもセミが撮れないのだもん。ショウジョウトンボのほか、下落合で頻繁に見かけるトンボは、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、ナツアカネ、アキアカネ、コシアキトンボ、ノシメトンボ、リスアカネ、ミヤマアカネ、ウスバキトンボなど。ヤンマ系では、オニヤンマ、ギンヤンマ、クロスジギンヤンマ、ヤブヤンマなど。ウチワヤンマを見たという人もいるが、わたしはまだ遭遇していない。
■写真中は、御留山(旧・相馬邸)の谷戸にある湧水源。は、野鳥の森の水源。(ポンプアップ)
■写真下は、新江戸川公園(旧・細川邸)の湧水源。は、椿山(旧・藤田邸)の湧水源。


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ChinchikoPapa

いつもリンク先まで、nice!をありがとうございます。>kurakichiさん
by ChinchikoPapa (2009-08-31 14:01) 

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